2020.07.09

制作研修のため、制作部のオフィスへ行った。新卒の私たちに加え、今年制作部から私たち人事課に異動してきたSさんという男性社員も様子を見にきた。40前後くらいかな。やさおとこな感じの。いわゆるまぁ…一般女性が「普通の男性」を思い浮かべたときに出てくるような、つまりぜんぜん普通ではなく比較的“善さそう”な男性 。フレームのない丸メガネをかけていて、やや細身だったか。イマドキパパといった感じで、仕事から帰宅したらちゃんと家事や幼い子供の面倒みてくれそう系。そして実際そうだった。カメラに詳しい。それとたぶん音声チックだった。喉をンンと鳴らす、咳払いに近いようなもの。2分に1回くらいかなぁ。いつ会ってもそうだったのとやや機械的な感じがしたので、喉の調子の問題というよりは、そうかなと。

研修場所は青山、梅雨はあけず雨が降っている。

3日間の制作研修は「自分の好きなものを持ってきて、その写真を撮る」というだいぶざっくりした内容で、こまったなとおもってTOKYO STYLEを持っていった。新卒の子達みんなで、おしゃれなオフィスの一室で構図を練ったりする。そこにやさおとこの彼もいた。カメラに詳しいのでおそらくカメラ要員として来ていたらしい。すると彼が私のTOKYO STYLEを手に取り、「これは…懐かしいね…」とぺらぺらめくりだした。でしばらくしたあと、「コーネリアスとか好き?」。小生、「バレた!」と思ったあと、「バレたというか、奇跡や!」と思った。というのも、かなりお堅い会社に入ってしまって(とくに私の人事課は年齢層が高く平均50歳くらい。10年ぶりに新卒をとったらしー)、同期の子らもまったく自分と共通点がなく(まぁ世の中はだいたいそう、向こうもそう思ってる)、本当に年齢が同じ人たちの寄せ集め。つーか一般企業ってそういうもんだからね。仕事ってね、サークルじゃないから。友達作りに来てないから。共通点なんかいらないし、働いていくうちに上司の愚痴とか共有できる話題は嫌でも勝手に増えるので、いまのうちは別に。そんな諦めの一方、やっぱりお子ちゃま気質の私はどこか寂しかったんだとおもう。こんなに知らん人と一緒に、これから?下手したら定年まで?とにかく超働きたくなかった。人事課超怖かったから。ハラスメントを煮詰めたガマガエルみたいな社長を筆頭に、それはもう、嫌〜なおじさんと派遣おばさんのごった煮で、(失礼ですが…)この会社に新卒をとる権利などなかった。「おじさんとおばさんがおじいさんとおばあさんになり、全員死んだらそのタイミングで廃業」でいいじゃん。ウチら若者を巻き込まないでよ。受け入れ体制整っていないくせに一丁前に新陳代謝をはかるな。あてくしにいわせると。で、寂しかったんです、あてくしが。いろいろと、思ってたのと違くて。

音楽の話はつづいた。「ミュージックアプリ見せあいっこしませんか?」といわれ、彼のを見てみると、コーネリオザ筆頭に渋谷系周辺、一方INUじゃがたら突然段ボールミンヒサコ…私の人生みたいなラインナップだった。だいぶ細かいところまで近いかも。おすすめとしてドイツのテクノかなんかを教えてもらったけど、忘れちゃいました。

 

その日の帰り道、同期の1番頭の悪い男が急に「ねぇ…なんかSさんって咳うるさくない?笑」と私たちにオモロ話として振ってきた。まぁ、まだ出会ったばかりのこの集団の中で、ソイツなりに話題を探した結果だったのかもしれないけど、そのときはシンプルに「こいつ地獄おつるぞパカ」と思ったので無視した。他の同期たちもさすがにちょっと引いていたようで、うっすら無視していた。こいつが採用されたのと同じ基準で私も採用されたのでしょうか、社長。そうであれば非常に苦しいです、私。

彼は写真の学校に通っていたらしい。だからキャメラに詳しいのか。なるほどやっぱりそっち系の人。比較的“遠くない”人ね。若い頃タワーレコードで働いていたらしい。バンドも一応。遠くないっつーか、近めだわ。私は完全に、吊り橋効果による好意を抱いた。恋愛とは完全に違うとも言い切れない好意。なぜならアニキでもない。お父さんでもない。先輩って呼ぶには遠いな。でももちろんスケベしたいわけでもない。まぁそれが“職場の人”なんだろうけど。でも当時の私にとって地獄の空間にただひとり、若者側でも年寄り側でもなく、明るくも暗くもなく、過剰におしゃれでもださくもなく、音楽が好きそうな気取った感じは身なりからわずかに香るとしても、絶妙なバランス感で居た。だから特に女子たちは、早い段階から彼に懐いていたと思う。

 

青山から帰る銀座線、向かいに座った知らない男性を眺めていた。グーに握った腕を「チャリで来た」みたいなポーズにするのを5回、頭を左下に振るのを5回、おもいきり上を向くのを7回。男性はなにかのスポーツ帰りなのか運動着を着ていて、さっぱりと刈りそろえられた髪の先には汗が滴っていたのをよくおぼえている。